おとなの勉強会

勉強会といっても一人ですけれど、興味のあることを書いていきます。

国会議事録を読む/第001回国会 隠退蔵物資等に関する特別委員会(その4宇都宮事件②)

栃木県警森課長の爆弾発言


 ここで、栃木県警経済防犯課の森課長が登場する。彼は検事局と供に摘発に関係している。彼の長々とした証言を抜粋すると以下の通りとなる。

  • 摘発を私利私欲のためにするのではなく国家的見地から遊休物資を活用するという趣旨であった船岡弁護士であったが、そのあとで今度の摘発をした場合に、その幾割かを現物で県からもらいたいという話があった。
  • 船岡の情報提供者は井上登という人物である。彼は強盗や窃盗事件を犯した前科ものである。彼は現在のところで言うクレーマーであり、県警にも何度も情報提供をしている常習者であり、県警も目をつけていた。

 爆弾発言の核心は次のところだ。突然森課長は山形県農業会の代理人である間島と言う男が、世耕に宛てたとされる信書を突然読み上げる。間島によるその手紙は世耕の気ままな振舞に山形県農業会が振り回されるうらみつらみが書き連らねられている。今まで防戦一方、何か不正があるのではないかと疑われていた官僚たちが反撃ののろしを上げた瞬間なのだ。それだけではない、さらなる爆弾を投下する。その一節が下記の通りだ。

 

更に又宇都宮に関する払下指令書交付に際しては塚崎、濱田両弁護士より弁護手数料として百万円也(本件は先生と両弁護士協議済と称し半額前渡を要求せらる)を要求せられ其の支払の準備迄致したる事、既に私より先生に報告せる通りにて山形県農業会も承知せる所に候。

爆弾発言の背景について

 何故これが爆弾発言なのかについては説明が必要だ。まず上述の手紙中「宇都宮に関する払下指令書交付」とは何かである。それは以下の通りである。

 船岡壽信ほか一名より、栃木県内の摘発の隱退藏物資につき当該物件を確認し、かつ別紙記載の物件を山形県農業会長理事佐藤直信へ供米完遂の目的のため別紙の通り報奬物資として引渡しを指令するものとする。(ただし右物品の代償代償はおって本部の指令をまって決裁するものとす)。右指司実行に対しては弁護士塚崎直義、同濱田三平に右処理を委任す。おって右処理にあたっては、栃木県宇都宮検事局係員の立会を求むること。別紙、物資の種類ならびに数量、被服及び同生地五十万ヤール、毛布三万枚、ただし現品確認の上品種ならびに数量決定のことと……

 これが世耕による指令書の第1号である。

 世耕は「三角貿易」を考えていたわけである。1947(昭和22)年3月は東京での食料危機が深刻化し、東北各県からの供米により事態を打開しようとしていた。その中で割り当て量未達の県の一つが山形県であった。供米させる策として、栃木県宇都宮の隠退蔵物資を摘発し、それを山形県に払い下げることにより、供米の報奨金として考えたわけである。

 その世耕の意を呈して摘発をしたのが、手紙の中に出てくる塚崎、濱田両弁護士である。その弁護士が山形県農業会に当時の百万円という大金を弁護料としてせしめようとしているという内容だ。

 つまり食料危機を想定して各県に供米を強制している現状があり、隠退蔵物資の払い下げと引き換えに供米を山形県に強制させた。供米は協力したものの、一向に物資は払い下げられず、払下げに関与したということで、濱田弁護士と塚崎弁護士は百万万円を農業会に請求している。

最高裁判事の関与?

 最初に登場する船岡にしても、濱田にしても、当時の弁護士という人達はとんでもない人が多いのかなと思ってしまう。だが塚崎弁護士は別格である。彼のフルネームは塚崎直義、この問題が委員会で議論されている最中に最高裁の判事に就任した、というから穏やかではない。下手を打つと最高裁を巻き込んだ大スキャンダルと言うことになる

 これを図にまとめてみると以下のようになる。

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 当然のことながらというか、官僚たちの狙い通りに委員会は泥試合になる。

濱田証人
 私は声を大にしてこの手紙をただいま御質問のごとくこういう席で読まれること自体がまつたく荒唐無稽な事実を針小棒大に書いて言つていることは間違いないと思います。その事由は彼(=手紙の主、間島)は大詐欺師なんです。

 この濱田弁護士のブチ切れというか、罵しりに近い言葉を皮切りに、場外乱闘に近い状態でいくつものファイトが議会で同時多発的に繰り広げられる。

 

国会議事録を読む/第001回国会 隠退蔵物資等に関する特別委員会(その4宇都宮事件③) - おとなの勉強会に続く