おとなの勉強会

勉強会といっても一人ですけれど、興味のあることを書いていきます。

国会議事録を読む/第001回国会 隠退蔵物資等に関する特別委員会(その4宇都宮事件④)

山形県農業界代理人間島の証言

 続いて間島が証言台に立つ。山形県農業会の代理人として世耕に信書を出した本人である。

間島証人

 しからばなぜああいう文書を出したかと申しますと、まず第一に宇都宮の指令をいただきますまでは、私は世耕先生が非常な御確信をもつて、相当の反対があっても押切っておやりになつておるのを、非常に頼もしく、かつ信頼をしておりましたけれども、宇都宮失敗の原因を反省し検討をしてみますのに、これは官吏と申しますか、官庁や県庁ばかりが悪いのではない。この宇都宮の物は出ないようになっておったのであります。指令書そのものを出してくだすった世耕先生も、ほんとうに山形にその品物が渡せるという御確信がなかったと私は思います。濱田君にしても、これを必ず手に入れることができると確信はされておらなかったと私は斷言をいたします。

 

 

 世耕としてみても山形県農業会の払い下げに関して、宇都宮の埋め合わせを色々考えたようだ。それが絵に描いたような泥縄で、ドタバタする。

間島証人(続き)

 たとえば三月三十一日に三つの方法を示されました。その代りに伴野物産の倉庫にある物をもらってやる。それが一つであります。それから同じ日に山形の森と佐藤――農業会の農工課長でありますが、この二人に赤羽に高島屋興業株式会社というのがあり、そこに摘発の対象になっている物があるから、そこへ買付けに行ってこいと言われた。それに対して両名は商人のようなやり方で行くのはお断り(したものの)、ぜひ行けと言われて両名は行った。ところが高島屋興業株式会社の方では面くらって、農業会の者が買付けに来たがと照会してきた。これは安定本部委員会の記録に残っています。

 もう一つは(隠退蔵物資処理委員会の)関根事務官に命じておられたが、長野県下にも隱匿物資がたくさんある。内務次官に話してやるから、この三つのうちどれかを受取ったらいいだろうと言われましたが、ことごとく失敗でありました。なお三十一日だったかと思いますが、商工大臣から一万反の(キャラコの)許可をもらってきたから、あすの朝こいと言われた。私どもは全国農業会の関東信越支部とともどもに、同じ状況にある農業会が一緒になって、政府の正式払下を受けようではないかということで進んでおりました。そのとき、私どもが世耕氏のところに集まったら出てきたのは京都のブローカーであります。私は一言二言話すうち、こんなものとはてんで話はできぬと思つて、二三分で話をやめて、世耕先生と二階でじかに話をした。私から先生に、あんな取引はやみ取引である。やみ取引なら、山形は金をもっている。買おうと思えば買える。

 しかるに、四月一日の前の晩十時、電話がかかってきて、商工大臣から一万反許可されたというので、半信半疑で行ってみたところ、やみブローカーである。私は先生になぜ、そんなことをされるか。いや、あれは自分の後輩の弁護士で目黒の方にいる、あれが紹介したから間違いないと思つてやったが、それではやめようと簡単におやめになつた。私はこれを聞いてもうそれ以上信頼していくことが――私自身一人が迷惑を蒙るならいざ知らず、山形県には七十三万の百姓が炊くものもなく、着物もなく苦しんでおります。そういう意気ごみで私どもがやっているにかかわらず、これでやれ、いかんのか、それではこの次だ、こういうのであります。それならば日本の役人は相手にできぬ、G・H・Qだ。こういう調子でG・H・Qにおれが話してやる。最後に商工大臣一万反の件が簡單にひつくり返った。私が言ったらMPがすぐに応援するとか、いろいろ威勢のいいお言葉を使った。田舎から出てまいりまして、MPというものを見れば……。

  これに対する世耕の反論は以下の通りである。

世耕弘一

 間島君の言うことは事実の点もあるが、うその点をつき混ぜてまことしやかに言うておるのとはまことに遺憾である。

 隱退蔵物資は山形県だけの問題でない。その関東十県の支部の代表者に一言半句もなくして、問島君一人が私の悪口を言うている。この払下問題をめぐつて、農業会のインチキ性、その行動には多くの疑惑をもっております。ある農業会のごときは幹部が農業会に穴をあけてしまって、穴埋めをせんがために払下運動をする者がある。山形県の農業会の代表者である森老人は、聞けば濱田君とはごくもとからの懇意である、濱田さんと懇意であればまず間違いはなかろう、この払下問題について間違いが起るようなことはなかろうというので、私は手をつけた。

 あの指令書を出すについても、わざわざ私は大蔵大臣、安本長官、それから農林大臣、ならびに内務大臣、商工大臣にも了解を得ました。栃木県の檢事局の検事に立ち会ってもらうということをちやんと明記してあります。しかるに栃木県の検事局はでたらめだから、どうのこうのと言うことは少し慎んだらよいと思います。さようなうそは、私はむしろうそと申します。

 なぜ私がそれほどあわてた処置をとったかと言いますと、東京はすでに区によつては二十日以上の欠配である。政府はこれに対して強権を発動する。軍隊を発動して不正な農家を発見次第財産を没収するということは、当時の新聞で御承知の通りである。私はこれを憂えた。なるほど強権の発動をすれば確かに米はでるでしよう。出たあとの農村はどうなるか、私がおそれたのはそこです。憂国の至情が私はそこから湧いた。

 栃木に調べに行つたところが殘念ながらそこには品物はなかった。私が空虚なでたらめな、農業会の連中をあやまらせるためにやったのじやないという証拠を近く提出いたします。さような次第で、この点は申訳ないと思う。

 そこで第二段の策としてどうしようかと言ったら、私の友人が、名古屋に任意供出の形でキャラコが一万反ある、かようなことを言ってきた。石井商工大臣は、農村の供出のためにその品物が任意供出で得られるというなら承諾しよう。これはこの議会の議場で私は承諾を得た。ところがその任意供出を言うてきた人はむしろブローカーであつて、正式のものではなかったという。そこで私はこれはいかぬというので、即座に解消したことは、これはあなたの言う通り、ほんとうのことです。
それから京都に隱退蔵物資を押えたという検事局からの報告が来ておったから、これはまさか間違うことはあるまい。それではどういうふうにしようかということになつたが、隱匿物資である以上、これがまた途中で官憲の干渉を受けて輸送が困難になるということだと、これは一つこの際(GHQ)司令部の協力をまつより仕方がないじゃないか、かように私は英文に打つた。

 まずこれは横浜の第八軍の軍政部の了解を得ることが必要だろうというので、軍政部に行つたのであります。ところが軍政部では、第一供出を完了したところに報奬物資をやらないで、供出未完了、しかも五〇%、六〇%を出ない山形方面などにやるのは不都合だということを、まず最初に非難を受けました。

 現在米がないのだ。三月危機が叫ばれ、日本はどうなるかわからぬのだ。せめて出さない農業会に報奨物資を先にやって米を出させておいて、あとで一一〇%出している農業会にもっとよい条件で出すというようにしていただいたらどうでしようかということを私は隊長に話した。それはグデルという大佐であります。それならひとつ考えておこう、明日来てくれ、こう言われたから、翌日、農業会の本部の連中、それに私の知っている通訳を一人連れまして、十人ばかりの者が横浜にまいりまして、陳情書を出したのであります。

 ところが残念ながらその日はアメリカの記念日で、グデル大佐は来ておられたけれども、係りの者が来ていないから、きようはこの問題について回答できない。日を改めて來てくれという話だった。それが、あるいは六日であつたか、多分七日と私は記憶いたしております。その話をした。私が留守でもこの話はまとまると思うから、諸君があとを協力してもらいたい。こういうふうに農業会の連中にも話して、私は七日の晩に立って選擧区へ帰った。

 

 世耕の証言からは最後までこの問題をきちんと片づけた感じはしない。農業会の連中を交渉をGHQに押しつけて、自分は選挙で忙しいからと逃げたような印象を受ける。次に続く世耕の言葉は言い訳にもならない、呆れるほど感情的である。

 

世耕弘一

 誠心誠意やったことである。都民の二十日以上の欠配を幾分でも緩和したらという私の政治家としての良心からしたことである。しかも選擧区からは早く来いこいというひつきりなしの電報である。一日遅れることは私の当落に影響することである。それすら犠牲にして、私は七日までがんばったのであります。

 最後の晩のときに、農業会の代表者が来て、せめてはこの機会に何か陣中お見舞をいたしたいということを口をそろえて言われた。私は感激のうちに送られたのであります。恨みを受けるところは少しもありません。もし恨みを受けるというのならば、それはあなた(=間島)自身の言葉以外に私は聞いておりません。

 これははっきり申し上げます。今私のところへ手紙を出したと言われるが、そういう手紙は受取った覚えはございません、殊に濱田、塚崎弁護士に対して百万円云々が書いてあるようなことは、私のような潔癖性、また私のような性格は、さようなことをもし濱田弁護士がやっておったなら、その手紙を握りつぶしにはいたしません。必ず抗議を申込みます。

 殊に感激のうちに送られた私が七日に立って、十一日とか十日の日に、そういう私を排撃するような手紙をなぜ出す必要があるか。これは隱謀である。あまりに見えすいた隱謀はよした方がいい。不都合千万である。威かしじゃない。

 

 世耕と言う人物、筆者の想像であるけれども、たぶん行動力があり、エネルギッシュである。直感というか嗅覚に優れ、情報収集力も優れているのだろう。反面、真面目な人から見れば気まぐれで勝手気まま、散らかすだけ散らかして、後片付けをしない人なんだろうと思う。

 

国会議事録を読む/第001回国会 隠退蔵物資等に関する特別委員会(その4宇都宮事件⑤) - おとなの勉強会に続く