おとなの勉強会

勉強会といっても一人ですけれど、興味のあることを書いていきます。

国会議事録を読む/第001回国会 隠退蔵物資等に関する特別委員会(その3) 水あめ事件②

警察の腐敗

それは坂本警察署に醤油の問題か何か知らぬが食糧品の問題で挙がったやみの団体があつた。それから順々と糸をたぐつてきたら遂にあめ問題に逢著した。これは大変だというので岩崎はただちに警視庁に動いて、警視庁の某々の二、三人が当時の坂本警察署の取調係官とやはりいろいろ関係があつて、一席設けた。これを何とか不問に附してくれぬかというような相談があつた。とにかくその係官は警察官としては正当か正当でないか知らぬが、腹が大きいと言いますか、悪人と言いますか、結局一件書類を焼いてしまつた。そうしてこれが潔く警察をやめて、その代償にとつたものがあめ三百カン、その当時の金で十何万円か二十万円とか言いました。これを握つてチヤツカリ警察を退陣した。名前は当時聞いておりましたけれども、どうも年取つたせいか記憶がなくなつて名前だけは失念しております。(議事録10号武永証人発言)

議会で何が問題になったか

結局この水あめの問題の焦点はこの摘発を通じて この捜査を妨げたかどうか、官僚は腐敗してブローカーと結託してこれを妨げたかどうかについてである。

そして、摘発で明らかになった岩崎澱粉化学工業において7,780缶はどうような位置付けなのか、隠退蔵物資なのか、正規のルートの物資なのか、ということになる。また正規のルートだったとしてもその処理は適当だったかである。

摘発された水あめの内訳について

この内訳について二転三転する。最初に摘発があったのは、1946年8月22日附で田中本田警察署長から鹽谷保安部長あてに報告書が出ております。進駐軍からの命に基いて警視庁を通じて調査した内容である。

内訳数量
現在数量 8,325缶
指定配給計画として厚生省医療課ほか三ヶ所 7,370缶
明治産業預かり品 300缶
その他自家消費 655缶

 

次に先に述べた目白署の有田署長の証言がある。その証言によれば水あめの量は8,325缶から7,780缶に減っている。その内訳として、

 

内訳数量
現在数量 7,780缶
日本水飴配給統制組合に供出 4,000缶
残余 3,780缶

と割り当て先も変っている。この有田証人は重要な証言を行なっている。それはまず摘発するに至った水あめの由来である。

私どもの調べで初めて知り得たのは、あめをつくるのにやはり澱粉一貫目に対してなんぼの割というような割合があるらしいのでありますが、工場担任者の話では六掛だということを申しておつたそうです。ところが実際はよい澱粉であれば八掛くらいになるものだそうであります。(中略)こういうふうのことで製品中に余剰が出てくるらしいのです。そこでその余剰をだんだん蓄積したのが理由の一つ。それから終戦前軍が勝手に各部隊から澱粉を持つて行つてさまざまに加工を委託したものが、終戦と同時にお流れになつてしまつたものがあるらしい。この数量ははつきりいたしません。そういうふうの関係から、約七千七百八十カンというものがそこに残っておるわけであります。

また次のような証言もしている。

残品の七千七百八十カン、そのうちの四千カンは配給統制会社に供出すべく正式ルートに注文があつた。残りの三千七百八十カンがつまり退藏された物資と認められるものであります。

隠退蔵物質の可能性があるという小杉の発言は少し奇妙である。前言で水あめは「隠退蔵物資緊急措置令」の適用範囲外であり、摘発はできなかったと言っているからである。それを議員たちに突っ込まれて、法的な意味ではなく世間で言われるところでの隠退蔵物資だという苦しい言い逃れをしている。残る問題は原料である澱粉を軍から受けたかと言う問題である。この件について鋭く追求したのは共産党の徳田議員である。

有田証人の証言によりますれば、この澱粉を得た、材料を得た本を言つておりますが、これは戦時中軍部から委託されたものが何でも二十七万カンと聞いている。(中略)この厖大なものが残ったわけであります。これは終戦後に残ったのでありますから、これは軍部から放出したものである。從つてこのあめ会社の所有ではないはずだ。これは政府が回収すべき性質のものであると思うのであります。

この主張はかなり証人として呼ばれる人達の間で痛い所をついたらしい。続いて証人として呼ばれた岩崎澱粉化学工業の岩崎専務の答弁となると、原料は軍由来のものではないと断言している。また今回の摘発の水あめは戦前の自由経済時代の在庫品(その当時は月に2、3万缶あったと言う)残りだと証言している。ただこの岩崎と言う人の発言は矛盾することが多く、徳田議員を呆れさせている。

○徳田委員
(中略)有田署長の言うのには、当時持つておつたのは七千七百八十カンであつたが、(中略)四千カンを差引いた三千七百八十カンというものが手もとの残品である、この四千カンだけは統制会社になるべきものである、こういうのであります。そうすると、三千七百八十カンはこれは退藏された物資ではないかと(有田署長に)突きましたところ、彼は、そうだ、これは退藏されておる物資だと自分は認めると言つておる。はたしてこれが退藏であつたかどうか。
○岩崎證人
私の所におきましては、七、八千本という数量は大体一週間ないし十日くらいの間に製造されるのでありまして、先ほど申し上げましたように、工場の修理、改築のためにやむを得ず七月までに生産を了えまして、それを十二月までに大体配給する予定で、日本水飴配給組合に対しましても、七千百三十本配給すると報告もしております。(中略)ですから自分としては退藏する意思は毛頭ありません(以下略)。
○徳田委員
そうすると、ここは非常におかしいのでありまして、小杉証人の証言によれば、四千カンが統制会社のものではなくして、実は四千五百カン統制会社のものであつた。その殘りは農林省、厚生省明治製菓その他あらゆる会社の委託品であつたと言われておるのであります。あなたの証言によると、七千七百何カンがすべて供出されるべきものである、配給されるべきものだと言われるのでありますが、ここに一大相違を生ずるのであります(以下略)。
○岩崎証人
今の七千七百八十本の中には、委託加工もはいつておりました。
○徳田委員
極めて証言は不明確でありまして、かかる事態に關して時々刻刻証言が変るようでは、これはまつたく信用ができないのでありまして、すでに同僚諸君からも信用ができないということをたびたび申されたのでありますから、折角ここまで足を運んで來られたのであるけれども、こういうような状態ではとうていだめでありますから、これはぜひとも責任ある本人岩崎社長をここへ証人として喚ばれたいのであります。この証言はまつたくわれわれ了解に苦しむことばかりでありますから、この点を特にお願する次第であります。

今回喚ばれた岩崎新一郎は社長の新太郎の息子である。社長は病気を理由についに委員会に出席することはなかった。委員会での報告では

内訳数量
京菓子組合(日本水飴配給組合経由) 4,500本
児童菓子組合 300本
同胞援護会 250本
厚生省医療局 400本
厚生省衞生局 230本
自家保有 185本
漏れ 31本
日本水飴配給組合または工業組合 420本

なお委託加工分として

内訳数量
明治製菓 846本
厚生省医療局 320本
明治乳業 21本
全國農業会 18本
地球製菓 100本
交通営団 70本

が内訳となる。委員会の関心は東京菓子組合に供出した4,500本の処理に移る。

宴会の疑惑

先に述べたように隠退蔵の可能性がありと目白署有田署長が証言した水あめ4,500缶については警視庁生活課の小杉課長がその処理を東京都に依頼した。先に述べたようにこの水あめは隠退蔵物資としては認定されていない。にも関わらず小杉課長はこの水あめの処理について関与を続けている。この件に関しては石田議員が質問している。

この水あめの處分は私(小杉課長)の責任においてやつたのだ。しかも私はあなたに、こうしたやみ価格で何千万円というような水あめの処分に関与する権限があるのかとお尋ねしたら、非常に政治的な意味をもつて処分したというふうなお答えだつたと私は承つておりますが、せんだつての栃木の眞子検事の証言並びに内務省の上田事務官の証言によりますと、隱退藏物資であるかどうかのまず搜査をする。しかしこれが隱退藏物資でないとわかつた場合にこの処分に関与することは、われわれ警察官にとつては越権行為であるというふうなことを証言なすつておるのであります。しかるに小杉証人は、上官に命令を受けた事件でありながら、これを自分の責任において政治的に処分あそばした、私たちはまことに奇々怪々なる証言であると思わざるを得ないのであります。

それに対して小杉課長は下記の通りに答弁している。

それで結局隱匿物資緊急措置令にいう隱退蔵物資ではないということがわかりました。しかしながら道徳的に見て、やはり広い意味の退蔵物資であるには違いない。從つてこのままこれを放任しておくならばやはり横流しの材料にならぬとも限らないという、防犯的の見地から、私はこの問題を処理しようとそのときに決心いたしたのでございまして、警察がこれらのものを処分するということはおもしろくないとは思つておるのであります。從いましてこれを警察で配分するとか、最後まで処分するとかいうようなことでなしに、権限をもつておる東京都庁に委讓をいたしまして、適正な配給をなされることを期待するために私はむしろ斡旋の労をとるというか、そういう気持を起したのでございます。従いまして当時といたしまして、防犯的な見地からやむを得ぬ措置であると解釈をいたしております。

警察、特に小杉課長のような高級官僚がこのような「防犯的」な意識を振りかざすとロクなことはない。つまり何でもできてしまうし、何でも隠せてしまう。この処理にあたって、神田の料亭での宴会が行なわれる。その宴会においても小杉の部下の警視庁警部が参加しているのだ。中野議員がブチ切れる。

まつたくこれは石田君の言葉じやないが、奇々怪々だ。警視庁の調べ官が、いやしくも被疑者であるものから招待を受けて、また招待を受けたと疑われるがごとき場所に出て、配分についてとかくの論議をするなどということは、言語道断と言わざるを得ない。このようなことがあるから、警視庁の行動が一切疑われ、全警察官の信用が失墜するゆえんである。

私はこういうようなことを平然としてここに証言される小杉證人の態度に非常に不滿をもつものだ。こんなばかなことがあり得るわけはない。たとえば猪股警部がそういう席に侍つて食糧の配分について相談するということがあつたならば、直接の責仕者であるあなたが猪股警部を呼んで、それぞれの責任をとつて処分するというのがあたりまえだと思う。

あるいは警視庁の慣例として、そういうようなときに御馳走酒に招ばれるのはあたりまえだとおつしやるなら別だけれども、少くともそういう場合にはそれぞれの責任を追究するというのが、課長の当然の責任ではないか。

それを追究しないというのはあなたの怠慢じやないか。私は非常に不審に思う。

かくのごときことが各警察官の信用を問われ、あるいは警視庁があらゆる面にわたつていろいろなことをしているんじやないかという疑惑の眼をもつて見られる原因がここに存していると思う。

あなたが当時追究しなかつたという証言に基くならば、少くともこの裏面には相当なる疑惑をもつて見られる事実があつたと私らは認定せざるを得ないのであります。

だが追求もここまでである。ここで一つの問題が持ち上るのである。つまり東京菓子組合に供出した4,500缶の行方である。小島議員の発言から明らかになる。

むしろ怪しいのは一旦統制会社に渡された四千五百本のあめのうち、石油カンに換算すると約千本近い水あめの行方が、わからなくなつてしまつておるというのでありまして、私はむしろこの千本のあめの行方を追究してななければ、この水あめの眞相は出てこないと思うのであります。かりにもしここに怪しき者があつて、いろいろなところに三百匁ずつ配給されたとか、あるいはこれによつて金を得た者がありといたしましたならば、おそらく禍根はこの行方不明になつておる千本の水あめにあるのではないかと考えるのであります。でありますからさらにつつこんで、この千本の水あめの行方について調査するために、この水あめに関する調査を進行せられんことを望むのであります。

ひょうたんなまず

この疑惑は内務省の警保局から出てきた資料に基づいたものである。この疑惑により当事者である東京菓子工業統制組合の人間が証人として喚ばれる。その結果、報告書に不備があることがわかる。4,500缶のうち約3,000缶は白あめ(水あめを乾燥させてパラフィン紙などでくるんだもの)であり、残りは砂糖を混ぜて乾燥ゼリーにしたり、飴だまにした。つまり白あめ以外の加工品の記載がされていなかったというオチになる。石田議員の発言を引用する。

もうこれ以上お尋ねしても、古い言葉でひようたんなまずというのですか、つかみどころのない禅問答になつてしまいますので打切ろうと思います。(中略)これ以上お尋ねしても証人からその時どつちがどうなつたのだか、どつちがくれと言つたのかやろうと言つたのかわからないような結果になりそうで、(中略)この辺で止めたいと思います。委員長に申上げますが、まことに殘念であります。こうした大きな問題で向うから提出された資料はまるでいい加減な資料ばかり出しておる、各証人を喚んでみればそれぞれ事前に証言の打合せをし、これをこまかく追究していけばその当時のことは記憶にないと言う。どうにもこれはしようがありません。結局はこの委員会の証人は虚偽の証言をした場合にはなんとかするというような罰則でなければどうにもならぬと思います。せつかく今日まで私どももやつたのですが、これから後の問題は委員会の判断になると思います。私の質問はこれで打切ります。

結局そういうことだったのだ。